
12月も中旬に入り、税務・会計業界は「年末調整」の実務に追われつつ、まもなく発表される来年度の「税制改正大綱」の動向に注目が集まる時期です。
そんな中、決算対策の有力な選択肢として議題に挙がるのが「企業版ふるさと納税」です。 「最大約9割の税軽減」という強烈なインパクトゆえに、魔法のような節税策として捉えられがちですが、議論を前に進めるために、まずはあえて水を差すような「冷徹な事実」を提示しておきたいと思います。
今日は、巷に溢れる「節税メリット」という甘い言葉ではなく、数字の裏にあるこの制度の本当の価値(哲学)について書きたいと思います。
1. 誤解だらけの「節税効果」
まず結論から申し上げます。 「キャッシュフロー(手元資金)を増やしたいなら、企業版ふるさと納税はやってはいけません」
この制度の謳い文句である「最大約9割の税軽減」という数字のインパクトが強すぎて、誤解が生じているかもしれませんが、数字を分解すれば構造は単純です。
【100万円を寄附した場合のキャッシュフロー】
- キャッシュアウト(寄附金): ▲100万円
- キャッシュイン(税の軽減): +90万円
- 【結果】: ▲10万円(持ち出し)
もし何もしなければ(普通に税金を払っていれば)、この「10万円」は会社に残っていたお金です。 つまり、この制度を使えば使うほど、会社のキャッシュは確実に減ります。(説明の都合上、限度額を無視しています)
個人のふるさと納税が、実質2,000円の負担で豪華な返礼品(経済的利益)を受け取れるお得な仕組みであるのに対し、法人の場合は「返礼品の受取禁止」です。 つまり、「経済的な得(Profit)」はどこにも存在しないのです。
2. 「コスト」か「投資」か
内閣府が発表した令和6年度企業版ふるさと納税による寄附額は約631億円となり、前年比約1.3倍となっています。なぜこの制度を利用する企業が増えているのでしょうか? それは、この「マイナス10万円」を「損失」と見るか、「割安な投資」と見るかの経営判断にあると考えられます。
この制度の本質は、「節税」ではありません。 簡単に言うと「本来なら全額自腹(100万円)で行うべき社会貢献やPR活動を、1割(10万円)のコストで実行できる権利」 なのです。
これを「損だ」と切り捨てるか、「9割引で自社の意思を示せるチャンスだ」と捉えるか。ここに経営者のスタンスが問われます。
3. 「お任せ納税」から「指名納税」への転換
私がこの制度に税理士として魅力を感じるのは、日本の税制において画期的なパラダイムシフトが起きている点です。
通常の納税は、国や自治体に納めた瞬間、使い道を限定しない資金としてプールされ(一般財源化)、全体の予算の中で配分されます。 自社の支払った税金が、役所の光熱費になったのか、公園の管理費になったのか、個別・具体的に追跡することはできません。
対して、企業版ふるさと納税は違います。 「〇〇市の教育デジタル化に使ってほしい」 「地元の伝統工芸を守るプロジェクトに使ってほしい」 と、企業が自ら使い道を特定できます。これは、税金の使い道を自らの意思で決定する「指名納税」と言えるでしょう。
「言われるがままに税金を納める(義務)」から、「自社の理念に合う事業を選んで税金を投じる(意思表示)」へ。 この「納税における主導権の回復」こそが、最大のメリットではないでしょうか。
4. 税金に「企業の意思」を刻む
義務として淡々と納める税金に「手応え」を感じることは少ないかもしれませんが、自社が応援したい未来への投資には「誇り」が伴います。
たとえキャッシュフロー上はマイナスであっても、 「うちの会社は、この地域の小学生向けタブレット端末を支援したんだ」 と、社員が胸を張れるようなお金の使い方。 それは、単なるコストではなく、企業文化を醸成するための「思いのある納税」です。
単に税金を減らす算段をするだけでなく、「この税金を、どの未来に投資するか」という視点で、寄附先(投資先)のリストを眺めてみるのも、経営者としての一興ではないでしょうか。
※本記事は令和7年12月9日時点の情報です。現時点で、本制度は令和9年度までの時限措置のため、適用の際は必ず最新情報や顧問税理士へご確認ください。
