『賃上げ促進税制』の実績と終焉〜1兆円に迫る減税の行方〜

「給料を上げれば税金が安くなる」 そんな極めてシンプルかつ強力なメッセージで、日本の賃上げを牽引してきた『賃上げ促進税制』、かつてない規模の実績を叩き出しながら、劇的な幕引きを迎えようとしています。

2026年(令和8年)2月に財務省が発表した最新の報告書。そこには「9,560億円」という、1兆円を目前にした驚愕の数字が記されていました。しかし、既に公表されている令和8年度税制改正大綱には、大企業・中堅企業向けの「廃止」という衝撃の二文字が刻まれています。

なぜ、これほどまでに利用されている制度が「終わる」のか。その舞台裏を、一次資料から読み解きます。


【1. 1兆円の巨大なインパクト:過去最大の実績】

まず、今回の報告書で目を引くのは、その減税規模の爆発的な拡大です。

  • 令和4年度:5,150億円
  • 令和5年度:7,278億円
  • 令和6年度:9,560億円

わずか2年で約2倍。約1兆円という数字は、法人税関係の特別措置の中でも最大級の「研究開発税制」に肩を並べる規模です。巨額の減税が、企業の賃上げ支援に投じられてきたことが読み取れます。

特に人手不足に苦しむ「サービス業」や「建設業」がこの恩恵を強く受けており、もはや「知る人ぞ知る税制」ではなく、日本企業のスタンダードとなっていたことが分かります。


【2. なぜ「廃止」なのか?:賃上げは当たり前の時代へ】

しかし、この盛り上がりの裏で、国は冷徹な判断を下しました。令和8年度税制改正大綱によれば、制度の柱であった大企業・中堅企業向けは廃止へと向かいます。中小企業についても見直しの検討がされる予定です。

その背景には、以下のようなメッセージが透けて見えます。

  1. 「賃上げは当たり前」のフェーズへ もはや減税という「アメ」がなくても、賃上げをしなければ人材を確保できない時代になりました。国としては、これ以上一律に多額の減税を続ける必要はない、という判断と読み取れます。
  2. 支援の『質』を問うフェーズへ 9,560億円という数字は、国の税収に与えるインパクトも甚大です。「一律の支援」を終了し、今後はより生産性向上に寄与する企業や、特定の政策目的に合致する投資へと、支援の「質」を厳格に選別するフェーズに入ったと言えます。

【結び:私たちは「支援なし」の時代へ】

1兆円規模の減税という「魔法」が解けるとき、企業には何が残るのでしょうか。

制度が「廃止」の方向へ向かっている今、大切なのは「減税があるから賃上げする」という思考からの脱却です。これからは、税制優遇という追い風がなくても持続的に賃金を上げられる「稼ぐ力」そのものが、よりシビアに問われることになります。

一つの時代を築いた『賃上げ促進税制』その圧倒的な実績とともに、今、私たちは大きな節目に立っていると感じます。

出典:財務省「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」第221回国会提出