負債利子と企業価値

投資プロジェクトを判断する際、その資金をエクイティ・ファイナンス(株主資本)で準備するのか、デット・ファインス(銀行借入や社債)で準備するのか、どちらで進めるのがよいのでしょうか。

法人税率30%・借入5,000万円・利率5%と仮定します。

【単位:万円】負債なし負債あり
営業利益8,0008,000
支払利息  0 250
税引前利益8,0007,750
法人税2,4002,325
税引後利益5,6005,425
株主へ5,6005,425
債権者へ  0 250
資金提供者・計5,6005,675

資金提供者である株主・債権者の取り分は、負債ありのパターンの方が75万円多くなります。これは法人税が75万円少なくなっている分が回ってきています。株主・債権者トータルから見た企業価値を考えると、負債ありの企業の方が価値が高いことになります。

これは有利子負債の節税効果(tax shield)が働いていることになります。

5%×(1ー30%)=3.5% これが実質の負債コストになり、上記の例では5,000万円×3.5%=175万円(支払利息250万円から安くなった税金75万円を引いた金額)になります。

設備投資のための借入の際は約定利率だけでなく、節税効果も考慮した実質利率で判断することが重要です。上記の経営者は負債コスト3.5%、これを把握しておけば将来得られるキャッシュフローの現在価値を算出し、投資すべきかの判断の際に役立ちます。

一方、デット・ファインスによって税収が減っていることになります。資金調達の方法の違いで税収にまで影響してくるので、奥が深いですね。(エクイティ・ファイナンスが活況になれば税収が保たれる。)

株主資本コスト

債権者(例えば金融機関)が要求するリターンである「負債コスト」に対し、株主が要求するリターンを「株主資本コスト」といいます。株主から見れば、これくらいのリターンは要求したい、というものです。負債コストはハッキリとした数字がでてくるのでわかりやすい(借入金利など)ですが、株主資本コストに関しては、それぞれの株主の要求収益率が異なってくるので、それを考慮に入れて数字を出す必要があります。

取引相場のない株式の評価に関し、配当還元方式を使用する際、還元率を現行の10%の固定率に代え「株主資本コスト」によるべきと指摘する意見があります(税務大学校論叢96号)。10%という高い還元率で割ることで、評価額が低くなっていることも注目ですね。

株主資本コストの求め方として最も多く使われているのがCAPM(キャップエム)という理論です。

株主資本コスト=リスクフリーレート+β×マーケットリスクプレミアム

リスクフリーレートとは国債に投資した場合に投資家が要求する収益率のことで、ここでは現在の個人向け5年国債の利回り0.33%を使います。

β(ベータ)とは株式市場全体の変動に対して、その会社の株式がどれだけ連動するかということを表した数値です。株式市場と同じ値動きをする株式の数値は1になります。ロイターのWEBサイトで調べられますので、今回は楽天グループ株式会社の10月11日時点のβ値0.88を使います。

マーケットリスクプレミアムとは国債利回りを超える部分、つまり投資家がリスクをとっていることによる報酬分のことです。10月11日時点のインデックスファンドTOPIXの5年利回りが6.65%ですので、5年国債の利回りとの差(6.65%-0.33%=6.32%)がリスクプレミアムになります。

0.33%+0.88×6.32%=5.89% これが楽天の株主資本コスト(個人投資家向け)になります。

取引相場のない株式(=上場していない株式)を配当還元方式でCAPM方式を用いて株主資本コストを求める場合、特にβ値をどのように求めるのかが問題になり、個人的には今後の展開に注目しています。(現在の10%よりも低くなれば、株式評価は上昇します。)

信託型ストックオプション

税務上の取り扱いが話題にあがっている信託型ストックオプション。国税庁は権利行使時における時価と権利行使価額との差額は「給与所得」としています。

ストックオプション導入側とすれば非課税としたい。役職員がストックオプションで手に入れた株式を市場で売却した際に、売却価額と権利行使価額との差額をまとめて上場株式分離の譲渡所得として20%(住民税込み、復興税除く。以下同じ。)の税負担で済ませてあげたい、のが導入目的のひとつだと思います。

国税庁の見解では「権利行使の時点で給与所得」となりますので最大で55%の税負担になります。また、源泉徴収の対象になりますので差益部分を給料として、対応した源泉徴収税額を役職員から徴収し納付することになります。

この源泉徴収に関して役職員に求償するのが原則ですが、なかなか理解を得るのが難しいケースも考えられます。実際には会社負担とするところもあるでしょう。求償権を放棄した金額は役職員に対する債務免除と考え、グロスアップ計算で放棄した時の給与となり、「源泉に源泉が発生する」なんともカオスな状態になります。

国税庁の資料では、権利行使価額は純資産価額方式を使用できる、ケースも示されています。特に事業開始から間もないスタートアップにすると、純資産価額は低いことが予想されます。つまり低い価額の権利行使価額が設定可能になりますので、この点はメリットがあると感じます。

日本経済新聞8月28日の朝刊で、この給与所得課税に関し上場新興13社が源泉所得税の返還を求める訴訟を検討しているとのことです。更にカオスな状態になりそうで目が離せません。